|
石見の海 角(つの)の浦みを 浦なしと人こそ見らめ 潟(かた)なしと人こそ見らめ
よしゑやし浦はなくとも よしゑやし潟はなくとも 鯨魚(いさな)とり浜辺(うみべ)をさして
和多豆(にきたずの)の荒磯(ありそ)の上に か青(おう)なる玉藻奥つ藻 朝羽振(あらはぶ)る風こそ寄せめ夕羽振る浪こそ来寄れ 浪の共(ぬた)かよりかく寄り 玉藻なす依り寝し妹を露霜の置きてしくれば この道の八十隈(やそくま)ごとに
よろずたびかえり見すれど いや遠に里はさがりぬ
いや高に山も越え来ぬ 夏草の思ひ萎(しな)えて 偲ぶらむ 妹が門(かど)見む なびけこの山
石見の海の角の海岸を入り江がないと人は見るであろうよ よい干潟がないと人は見るであろうよ ええままよ入り江はなくてもええままよ干潟はなくても 荒涼とした磯の上に青々とした美しい藻を朝吹く風が寄せてくるであろう 夕方押し寄せる波が寄ってくるであろう その波と一緒にあっちへ寄ったりこっちへ寄ったりする玉藻のように寄り添って共寝した妻をあとに置いて来たので この道の曲がり角ごとに何度も振り返って見るけれど いよいよ遠く妻の住む里を離れてしまったよ ああ今頃は夏草のように思いしおれて私のことを思っているであろう 妻の家の角をもう一度見たいものだ さあなびき伏しておくれこの高角山よ
石見のや 高角山(たかつのやま)の木の際(このま)より
わが振る袖を妹見つらむか
今は島の星山という
第5章へ
茂吉と鴨山Indexへ
|